年収800万円で住宅ローンはいくら借入可能?返済計画のコツも解説
年収800万円は日本人の2022年の平均年収である約458万円に比べて大幅に高く、高収入の世帯と言えます。収入に対して住宅ローンの金額が大きくなると生活が苦しくなり、また審査にも通りにくくなりますが、年収800万円の場合は、ある程度高額なローンを組むのも可能でしょう。住宅の買い替えなどを検討するにあたって、まずは生活に困らない程度の借入額がいくらなのかを知っておくことが大切です。
この記事では年収800万円の世帯が、どの程度まで住宅ローンを借入可能なのか、また返済期間別の月々返済額や返済計画を立てるコツについて解説します。
目次
1.年収800万円で借り入れできる住宅ローンはいくら?
住宅ローンを組むときは、自分の年収額で利用できる借入限度額と、実際に借り入れする金額を考えることが大切です。
以下では、年収800万円で借り入れできる住宅ローンの借入限度額と平均借入額、用意すべき頭金の額について説明します。
1-1.年収800万円の場合の住宅ローン借入限度額
年収800万円の場合の住宅ローン借入限度額は「7,500万円~8,000万円」が相場です。
そもそも住宅ローンの借入限度額を算出する際には「返済負担率」という指標を用います。返済負担率とは、住宅ローン利用者の年収に対して年間返済額がどの程度を占めるかを示した割合です。
返済負担率は住宅ローン会社によって基準が異なります。代表的な住宅ローン商品であるフラット35の基準では、年収400万円以上の返済負担率は35%が上限です。
年収800万円の方がフラット35で借り入れする場合、年間返済額の計算式は下記の通りです。
年間返済額=年収800万円×返済負担率35%=280万円
返済負担率を35%以下にするには、年間返済額を280万円以内に収めなければなりません。
年間返済額280万円を月々の返済額に換算すると(280万円/12か月=23万円)となり、1か月あたり約23万円以下の負担であれば借り入れできます。
月々の返済額から逆算すると、固定金利1.5%・返済期間35年の場合には、住宅ローン借入限度額は約7,500万円です。
ただし、年収800万円の手取り月収は、ボーナスなし・保険料等を差し引いた条件で約50万円となります。返済負担率35%では(50万円-23万円=27万円)となって、手元に27万円しか残らない計算です。
家庭を持っている方にとって月々23万円の返済額は負担が大きいため、限度額いっぱいの借り入れは現実的ではありません。
1-2.年収800万円の場合の住宅ローン平均額
無理のない返済で住宅ローンを利用するには、住宅ローンの平均借入額を確認することがおすすめです。住宅ローンの平均借入額は「平均年収倍率」をもとにして計算できます。
平均年収倍率は、購入を予定している物件価格が年収の何倍相当であるかを算出する指標です。一般的な目安は年収の5~6倍であるため、年収800万円の場合は「4,000万円~4,800万円」が目安となります。
ただし、平均年収倍率は新築・中古といった物件の種類によって異なる点を知っておきましょう。参考として、2022年度における物件の種類別での平均年収倍率を紹介します。
【2022年度】物件の種類別にみた平均年収倍率 | ||
---|---|---|
物件の種類 | 年収倍率 | 800万円の場合の金額 |
土地付注文住宅 | 7.7倍 | 6,160万円 |
マンション | 7.2倍 | 5,760万円 |
建売住宅 | 6.9倍 | 5,520万円 |
注文住宅 | 6.9倍 | 5,520万円 |
中古マンション | 5.9倍 | 4,720万円 |
中古戸建 | 5.7倍 | 4,560万円 |
出典:住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」
年収倍率は土地付注文住宅が最も高く、建売住宅・注文住宅から中古住宅に向かって倍率は下がります。800万円の場合の金額を見ると、建売住宅・注文住宅であっても5,520万円であり、土地付注文住宅を建てる場合は6,160万円です。
年収800万円の場合での物件価格の目安「4,000万円~4,800万円」と比べると、建売住宅・注文住宅や土地付注文住宅は負担が大きくなる傾向があります。
返済負担が大きくなりすぎると、生活に余裕がなくなり、返済が滞る可能性もある点に注意してください。以下の計算式で返済比率を算出し、返済負担がどのくらいかを確認しておくとよいでしょう。
返済比率(%)=年間返済額÷年収×100
出典:みずほ銀行「住宅ローンの返済比率の目安は?上限割合や計算方法、注意点」
無理のない月々の返済額は、年収800万円の場合10~14万円、年間返済額に直すと120~168万円が目安です。返済比率として算出する場合、15~21%となります。
1-3.年収800万円の場合は頭金をいくら用意すべき?
住宅ローンを利用するときは、一般的に頭金を用意します。
頭金とは、住宅購入代金の一部として支払うお金のことです。住宅購入価格から住宅ローン借入額を差し引いた金額が、頭金の金額となります。
頭金を入れると、借入金額を少なくでき、住宅ローンの返済負担を抑えられます。ただし、必要な貯蓄を圧迫するほどに頭金を入れると、かえってローンの返済が滞る恐れもある点に注意が必要です(詳細は4-1をご覧ください)。
頭金をいくら用意すべきかは、利用者本人の資産状況や物件の購入価格によって異なります。例として、フラット35利用者における頭金の割合を見てみましょう。
【2022年度】フラット35利用者の物件の種類別にみた頭金の割合 | ||
---|---|---|
物件の種類 | 手持ち金(頭金) | 頭金の割合 |
土地付注文住宅 | 449.6万円 | 9.6% |
マンション | 987.8万円 | 20.4% |
建売住宅 | 317.7万円 | 8.5% |
注文住宅 | 641.2万円 | 17.3% |
中古マンション | 528.9万円 | 16.8% |
中古戸建 | 274.3万円 | 10.1% |
出典:住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」
フラット35利用者の頭金の割合は8.5%~20.4%と広い幅があります。
頭金の割合を平均すると約14%です。購入予定の物件や用意可能な自己資金額にもよるものの、15%前後の金額は頭金として用意したほうがよいでしょう。
金融機関によっては頭金なしで住宅ローン契約ができる「フルローン」を利用できるところもあります。フルローンは頭金を用意する必要がないため、貯蓄が多くない人にとって魅力的な選択肢です。
ただし、頭金なしだと住宅ローン借入額が大きくなり、毎月の返済額が高くなる点に注意してください。
また、フルローンは審査基準が厳しいため、利用したいと思っても住宅ローン審査に通らず利用できない可能性があります。
2.返済期間別にみた毎月の返済額をシミュレーション
年収800万円の方が下記の条件で住宅ローンを組んだ場合、総返済額がいくらになるかの目安を紹介します。
●住宅ローンの借入条件
- 元利均等返済
- 固定金利1.5%
- ボーナス払いなし
●借入額・返済期間ごとの総返済額の目安
借入額 | 返済期間 | ||
---|---|---|---|
15年 | 25年 | 35年 | |
2,000万円 | 2,235万円 | 2,400万円 | 2,572万円 |
3,000万円 | 3,353万円 | 3,600万円 | 3,858万円 |
4,000万円 | 4,470万円 | 4,800万円 | 5,144万円 |
以下では、借入額別に毎月の返済額や総利息額について解説します。
2-1.借入額2,000万円の場合の月々の返済額
最初に、借入額2,000万円で住宅ローンを組んだ場合の返済額を表形式で紹介します。
返済期間 | 毎月の返済額 | 総返済額 | 総利息額 |
---|---|---|---|
15年 | 12万5,000円 | 2,235万円 | 235万円 |
25年 | 8万円 | 2,400万円 | 400万円 |
35年 | 6万2,000円 | 2,572万円 | 572万円 |
総返済額は2,235万円〜2,572万円であり、年収800万円の約3倍となっています。
返済比率は、返済期間が15年の場合は18.75%、25年の場合は12%、35年の場合は9.3%です。返済期間が長いほど返済比率は少なくなり、月々の返済負担を抑えられます。
しかし、返済期間が長いほど住宅ローンの総利息額が増えて、総返済額が高くなる点には注意が必要です。
また、住宅の購入資金として考えると、借入額2,000万円だけでは十分な額とは言えません。4,000万円~4,800万円の物件を購入するケースでは、2,000万円~2,800万円を頭金として用意する必要があります。
2-2.借入額3,000万円の場合の月々の返済額
次に、借入額3,000万円の場合の返済額を紹介します。
返済期間 | 毎月の返済額 | 総返済額 | 総利息額 |
---|---|---|---|
15年 | 18万7,000円 | 3,353万円 | 353万円 |
25年 | 12万円 | 3,600万円 | 600万円 |
35年 | 9万2,000万円 | 3,858万円 | 858万円 |
総返済額は3,353万円〜3,858万円であり、年収800万円の約4〜5倍弱となっています。
返済比率は、返済期間が15年の場合は28.05%、25年の場合は18%、35年の場合は13.8%です。借入額2,000万円の場合と比較して返済比率が増えており、月々の返済にかかる負担が大きくなっています。
特に返済期間15年の返済比率28.05%は、毎月の収入の1/4以上を返済に充てる計算です。家庭を持っている方の場合、収入に余裕がなくなる可能性もある点に注意しましょう。
住宅の購入資金としては、借入額3,000万円の場合も相当額の頭金を用意しなければなりません。4,000万円~4,800万円の物件を購入するケースであれば、頭金として1,000万円〜1,800万円が必要です。
2-3.借入額4,000万円の場合の月々の返済額
借入額4,000万円の場合の返済額は、下記の表の通りです。
返済期間 | 毎月の返済額 | 総返済額 | 総利息額 |
---|---|---|---|
15年 | 24万9,000円 | 4,470万円 | 470万円 |
25年 | 16万円 | 4,800万円 | 800万円 |
35年 | 12万3,000円 | 5,144万円 | 1,144万円 |
総返済額は4,470万円〜5,144万円であり、年収800万円の約5〜6倍となっています。
返済比率は、返済期間が15年の場合は37.35%、25年の場合は24%、35年の場合は18.45%です。返済比率は借入額3,000万円の場合よりも増えていて、特に返済期間15年の返済比率37.35%は現実的に返済が難しい数値です。
住宅の購入資金としては、借入額4,000万円は頭金をいくらか用意すれば住宅購入がしやすい金額です。4,000万円~4,800万円の物件を購入するケースでは、頭金なし〜800万円を用意すれば購入金額を満たせます。
3.返済金額は金利タイプによっても異なる
住宅ローンの返済金額を把握するには、金利タイプによる違いを把握することも大切です。金利タイプによっては返済途中で金利が変わり、全体の返済金額に影響が出るケースもあります。
住宅ローンの金利タイプを3つ挙げて、それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。
3-1.全期間固定金利型
全期間固定金利型とは、最初に借り入れたときの金利のまま変わらず、全借入期間を通して一定の金利で返済する金利タイプです。
●全期間固定金利型のメリット
- 市場金利が上昇しても、返済中の住宅ローンの金利は上がらない
- 返済計画が立てやすい
全期間固定金利型は金利が固定されるため、借り入れ後に市場金利が変動しても返済中の住宅ローンには影響しません。将来的に市場金利の上昇が予測される場合、全期間固定金利型で住宅ローンを組むと、金利上昇による利息額の上昇を避けられる可能性があります。
また、全期間固定金利型は完済するまでの毎月の返済金額が確定しています。返済計画が立てやすく、無理のない借り入れがしやすいでしょう。
●全期間固定金利型のデメリット
- 市場金利の下降があっても、住宅ローンの金利引き下げが行われない
全期間固定金利型の金利が固定される特徴は、市場金利の下降が予測される場合はデメリットになり得ます。市場金利が下降しても、全期間固定金利型では金利引き下げの恩恵を受けられません。
3-2.固定金利期間選択型
固定金利期間選択型とは、借り入れるときに3年や5年といった期間を決めて、期間中は固定金利が適用される金利タイプです。固定期間終了後は、変動金利に移行するか、再び固定期間を設定するかを選べます。
●固定金利期間選択型のメリット
- 固定期間中は一定の金利で住宅ローンの返済ができる
- 固定期間の終了時に、今後の金利傾向を踏まえて金利設定を決められる
固定金利期間選択型は、固定期間中の住宅ローン返済額が一定になります。金利変動の影響を受けず、計画的な返済ができる点がメリットです。
また、固定期間の終了時には今後の市場金利を予測して、自分にとって有利な金利設定を決められます。
●固定金利期間選択型のデメリット
- 返済計画が立てにくい
- 金利傾向の予測が外れたときに、総返済額が増える可能性がある
固定金利期間選択型は借り入れ時点で総返済額が確定しないため、返済計画が立てにくいデメリットがあります。
また、金利設定の見直し時に行った金利傾向の予測が外れると、総返済額が増える可能性がある点にも注意してください。
3-3.変動金利型
変動金利型とは、金融情勢の変化などに伴って、定期的な金利の見直しが行われる金利タイプです。金利の見直しは原則として5年ごとであり、市場金利の上昇・下降に合わせて最大で今までの返済額の1.25倍まで住宅ローンの金利が上下します。
●変動金利型のメリット
- 借り入れ後に市場金利が下降すると返済額が減り、返済負担を抑えられる
- 金利が低く設定されていることが多い
変動金利型は住宅ローンの金利が市場金利に合わせて動くため、借り入れ後に市場金利が下降すると住宅ローンの金利も下がります。想定よりも返済額が減って、返済負担を抑えられる可能性があるでしょう。
また、3種類の金利タイプの中で、変動金利型は基本的に金利が最も低く設定されています。
●変動金利型のデメリット
- 金利が定期的に変わり、返済計画が最も立てにくい
- 金利上昇の幅によっては未払利息のリスクがある
変動金利型は金利が定期的に変わるため、返済計画の立て方が難しい点がデメリットです。
また、急激な金利上昇が起こると、ローン支払額よりも利息部分の金額が大きくなって利息の支払いが繰り延べられる「未払利息」が発生するリスクもあります。
4.住宅ローンの返済計画を立てる際のコツ
住宅ローンの返済計画を立てておくと返済の流れがイメージできて、無理のない借入・返済を実現しやすくなります。
返済は長期にわたるため、返済計画は返済期間全体を想定して立てましょう。住宅ローンの返済計画を立てる際の3つのコツを紹介します。
4-1.頭金を無理のない範囲で増やす
頭金を無理のない範囲で増やすことで、滞りなく返済ができる返済計画を立てられます。
返済計画において頭金が重要である理由は、十分な金額の頭金を用意すると住宅ローン借入額が少なく抑えられて、返済負担を減らせるためです。金融機関によっては、頭金を多く入れることで適用金利の優遇が受けられるケースもあるでしょう。
無理のない範囲とは、借り入れ後の生活費や将来の貯蓄に大きな影響が出ない金額のことです。
例として、現在の貯蓄額が1,000万円の方が1,000万円をそのまま頭金に入れると、借り入れ後の貯蓄が0円になって万が一の備えができません。入居時にかかる引っ越し費用や家具購入費用、家庭を持っている方は子どもの教育費など、将来的に発生する費用を含めて頭金の金額を考える必要があります。
4-2.ライフプランを考慮して借入額を決定する
住宅ローンの返済計画は借入額によって大きな内容の違いが生まれます。無理のない返済計画を立てるには、ライフプランを考慮して借入額を決定しましょう。
家庭を持っている方であれば、出産や子どもの進学・独立、親の介護といったライフイベントを視野に入れます。自身の仕事についても、転職や定年退職を見据える必要があるでしょう。
ライフイベントによっては世帯収入が減少するケースがあります。収支バランスが崩れると、住宅ローン返済による負担が大きくなる可能性があるため、ライフイベントによる収入額の変化も想定しなければなりません。
家族構成や自身のライフプランを考慮し、収入額が減少しても問題なく返済できる借入額にすることが大切です。
4-3.住宅ローン控除を有効活用する
年収2,000万円以下の方の場合、住宅ローン控除を利用すれば還付を受けられます。住宅ローン控除を有効活用することで、余裕のある返済計画を立てやすくなるでしょう。
住宅ローン控除とは、年間の合計所得金額が2,000万円以下の方を対象として、年末時点での住宅ローン残高の0.7%が最長13年間所得税から還付される制度です。所得税で控除しきれなかった場合は、翌年度の住民税からも還付が受けられます。
なお、新築住宅・中古住宅といった購入する住宅の諸条件によって、住宅ローン控除の控除期間や最大控除額などは異なります。住宅ローン控除そのものも制度改正によって内容が切り替わるケースがあるため、住宅ローンを利用する方は最新の情報を確認することが重要です。
まとめ
年収800万円の方が住宅ローンを借りる場合、限度額は7,500万円~8,000万円です。ただし、固定金利1.5%・返済期間35年で7,500万円を借りた場合、毎月23万円を返済しなくてはならず、負担が大きいため現実的ではありません。一般的に年収800万円の場合、物件購入価格の目安は年収の5~6倍の4,000万~4,800万円であり、頭金を考慮すると借入額は4000万円前後になります。
住宅ローンの返済で生活が苦しくならないよう、頭金を無理のない範囲で多めに用意し、ライフプランを考慮することが大切です。住宅ローン控除制度も有効活用すれば、余裕のある返済計画を立てられるでしょう。