住宅ローンの金利は今後どうなる?日銀の金融政策が与える影響を解説
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住宅ローンの固定金利は、10年国債金利である長期金利の影響を受けます。2023年10月に、日本銀行は今後の金融政策として、長期金利の上限を1%までは容認することを発表しており、これを受けて大手銀行も金利の引き上げを行っています。これから住宅ローンを組む方にとって金利の行き先は気になる点でしょう。
この記事では住宅ローンの金利が今後どうなるのか、日本銀行の金融政策や住宅金融支援機構・大手銀行の金利の変化を参考に解説します。金利が上昇した場合に取るべき対策も掲載しているため、住宅ローンの利用を考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
1.日銀の低金利政策は今後柔軟化される
2023年10月31日、日銀は大規模な金融緩和策の枠組みを維持した上で、長期金利の上限見直しを決め金融政策の運用を柔軟化することを発表しました。長期金利においては2023年10月時点での0.7%前後となっており、それまで0.5%程度としていた長期金利の上限を1%までを容認すると発表したため、今後は住宅ローンなどの固定金利に影響が出ると予想されます。
また、住宅ローンの変動金利は、日本銀行(日銀)が民間の金融機関に資金を貸し出す際の「基準貸付利率」にも大きな影響を受けます。
【基準貸付利率が上下する理由】
景気がインフレ傾向を見せる | 景気がデフレ傾向を見せる |
↓
日本銀行が金利を上げる | 日本銀行が金利を下げる |
↓
銀行の貸出金利が上がる | 銀行の貸出金利が下がる |
↓
企業がお金を借りにくくなる | 企業がお金を借りやすくなる |
↓
経済活動が停滞してインフレが抑制される | 経済活動が活発化してデフレが抑制される |
基準貸付利率は、補完貸付制度(民間の金融機関が事前に差し入れた担保の範囲で日銀から借り入れを行える制度)に適用される金利です。かつては「公定歩合」とも呼ばれていたものです。
2023年10月時点において、日本の基準貸付利率は0.3%、長期金利は1%以下であり、他の先進国と比べて非常に低い状態にあると言えます。
また、景気や物価の安定などを達成するために、金融市場の金利を誘導する目的で定められる「政策金利」は、日本の場合-0.1〜-0.01%と極めて低い特徴があります。
【各国の政策金利(2023年10月時点)】
日本 | -0.1~-0.01% |
---|---|
韓国 | 3.25% |
アメリカ | 5.25~5.50% |
ロシア | 12% |
インド | 6.5% |
EU | 4.50% |
アメリカなどの先進各国は、急激な物価上昇・インフレを抑制することを目的として、2022~2023年にかけて大幅な利上げを行っています。日本ではマイナス金利政策などの金融緩和政策により金利が抑制されてきましたが、先進諸国の中では日本の低金利政策が目立つ状況になってきました。
これらの理由からも、日銀は金利政策を柔軟化する方向にかじを切っています。
2.長期金利が住宅ローンに与える影響
日銀の金融政策の柔軟化による長期金利の上昇は、住宅ローンの中でも特に固定金利に大きく影響します。長期金利の上昇が固定金利・変動金利のそれぞれに与える影響について解説します。
2-1.長期金利上昇が固定金利に与える影響
住宅ローンにおける「固定金利」とは、ローン借入期間の全期間、または借入時から一定の期間で金利が固定されている金利タイプのことです。期間選択型の固定金利では主に円金利スワップレート(※)を参考に、また、全期間固定型の金利ではそれらに加えて日本国債10年物金利(長期金利)を参考にして金利が決定されています。このため、固定金利は長期金利上昇の影響を受け、今後も上昇傾向が続く見通しです。
※円金利スワップレートとは固定金利と変動金利を等価交換(スワップ)する際の固定金利レートのことで、金融取引で広く一般に用いられているものです。
全期間固定型金利の住宅ローン「フラット35(借入期間が21年以上・35年以下)」の場合、2021年4月時点の金利は最低で1.370%、最高で2.170%でした。その後上昇傾向が続き、2023年11月には最低で1.960%、最高で3.530%となっています。金利の最高値を比較すると2年半ほどで約1.4%上昇していることが分かります。
出典:住宅金融支援機構「【フラット35】借入金利の推移(最低~最高)令和3年4月から」
金利推移が上昇傾向にあるのは、「フラット35」だけではありません。大手の主要銀行が提供する住宅ローンでも同様であることを押さえておきましょう。
【全期間固定金利の年利率(2023年11月時点)】
フラット35 | 1.96~3.53% |
---|---|
三井住友銀行 超長期固定金利型プラン(20年超~35年以内) | 2.25~3.15% |
みずほ銀行 全期間固定金利(ローン取扱手数料型、固定31~35年) | 1.93~2.03% |
みずほ銀行 全期間固定金利(保証料前払い方式、固定31~35年) | 1.98~2.08% |
三菱UFJ銀行(全期間固定31~35年) | 1.84~1.97% |
固定金利の上昇は今後もしばらく続くと考えられます。住宅購入の価格や住宅ローン契約のタイミング、借入額、返済期間などを十分検討する必要があるでしょう。
2-2.長期金利が変動金利に与える影響
変動金利とは、ローン借入期間中に適用される金利が変動する金利タイプのことです。適用される金利は毎月変動するわけではなく、一般的には半年に1度見直しが行われます。
住宅ローンの変動金利は、日銀の政策金利やこれに連動して変動する短期金利に影響を受けます。日銀は主に短期金利をコントロールするためのゼロ金利政策・マイナス金利政策を継続しているため、現在のところ変動金利は低く抑えられています。日銀が長期金利の上昇を容認しても、すぐに変動金利に影響は出ていません。
【変動金利の年利率(2023年11月時点)】
プラン名 | 店頭金利 | 変動金利の年利率 |
---|---|---|
三井住友銀行 最後までずーっと引き下げプラン | 2.475% | 0.475~0.725% |
みずほ銀行 変動金利(ローン取扱手数料型) | 2.475% | 0.375~0.675% |
みずほ銀行 変動金利(保証料前払い方式) | 0.425~0.725% | |
三菱UFJ銀行 | 2.475% | 0.345~0.475% |
変動金利は住宅ローン市場で人気が高く、金融機関間でも金利競争が働くため、今後しばらくの間は金利が低く抑えられる傾向が続くでしょう。一方で、今後マイナス金利政策・ゼロ金利政策が解除された場合、変動金利が大幅に上がる可能性もあります。今後の金融政策や金利動向を注視する必要があります。
3.低金利政策は将来的に終焉する?
日本の低金利政策は1999~2000年のゼロ金利政策、2016年以降のマイナス金利政策と長期的に続いており、住宅ローンの金利の動向が今後どうなるかは分かりません。一方で、ニッセイ基礎研究所や大和総研は、2028年にマイナス金利政策などの金融緩和政策は終焉すると予想しています。
出典:ニッセイ基礎研究所「中期経済見通し(2022~2032年度)」
これらの予想の通り、2028年頃に金融緩和政策が終了して金利が上昇した場合、固定金利と同様に変動金利も上昇することが考えられます。家計に一定の負担がかかる可能性があるため、住宅ローン利用者は金利の上昇を前提として住宅の購入準備を進めるとよいでしょう。
4.今後金利が上昇した場合の対策
長期金利の上昇により住宅ローンでも上昇しつつある固定金利と同様に、変動金利も低金利政策の行方によっては今後金利が上昇する可能性があります。現在の低金利の恩恵を受けやすくするためにも、金利が上がる前に住宅の購入・住宅ローンの借入をしておくとよいかもしれません。
ただし、変動金利型住宅ローンの場合はローン借入期間中に金利が変動するため、政策変更による金利上昇リスクへの対策を考えておく必要があります。主な2つの対処法を確認し、住宅ローン金利の上昇に備えましょう。
4-1.繰り上げ返済も念頭に置く
将来的な金利上昇に備える場合は、繰り上げ返済を念頭に置いて貯蓄ペースを上げ、返済資金を確保しておくことが大切です。
金利が上昇する局面においては、変動金利よりも固定金利のほうが早く金利が上昇するのが一般的です。そのため、固定金利が上昇してもすぐに変動金利が上昇するわけではないのですが、変動金利もいずれ上昇するかもしれないと認識しておきましょう。
また、変動金利タイプかつ元利均等返済方式のローンを利用している場合、一般的に金利見直しによって金利が上昇した場合でも5年間は返済額が変動しません。上昇した金利分の支払いが免除されるわけではありませんが、毎月のローン返済額は5年間は変わらないため、この期間中に金利上昇への備えをすることができるでしょう。
借入時には家計とのバランスを考えた上で、資金計画や返済プランを検討しましょう。
4-2.総返済額が上昇する場合のシミュレーションをしておく
金利が上昇した場合、住宅ローンの総返済額が増えることにも注意が必要です。金利が上昇するリスクをふまえた上で総返済額や毎月の返済額をシミュレーションし、無理なく返済ができるかどうか確認しておきましょう。
たとえば、借入金3,000万円、借入期間20年で当初の金利が0.5%だったものが5年後に上昇した場合の総返済額を考えてみましょう。年間金利が1%・2%・3%・5%に上昇した場合の総返済額シミュレーションは下記の表の通りです。
【5年後に金利が上昇した場合の返済総額シミュレーション】
年間利率 | 総返済額 |
---|---|
0.5%のまま | 約3,153万円 |
0.5%→1%に上昇 | 約3,242万円 |
0.5%→2%に上昇 | 約3,427万円 |
0.5%→3%に上昇 | 約3,619万円 |
0.5%→5%に上昇 | 約4,031万円 |
※借入金3,000万円、借入期間20年、元利均等返済で計算。
このように、金利の変動幅が大きいほど総返済額も大きくなります。家計やライフプランを考慮した上で、利上げがあった場合でも安心して支払いができる返済計画・方法を検討しましょう。
まとめ
日本銀行の低金利政策が柔軟化したことにより、住宅ローン金利、特に固定金利は今後少しずつ上昇していくと予測できます。一方で変動金利はマイナス金利政策・ゼロ金利政策が解除されなければ、急速に上昇する可能性は低いと言えます。固定金利で住宅ローンを組み、家を買う予定の方は、早期に購入するほど固定金利による恩恵を受けやすいでしょう。
今後、金融政策が転換する可能性はゼロではありません。家計やライフプランを考慮した上で、利上げにより金利が変わった場合でも安心して支払いできる返済計画を立てるのが大切です。
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白坂 大介
保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士 | 宅地建物取引士 | 住宅ローンアドバイザー | 証券外務員1種
経歴
大阪市東淀川区 出身
上宮高等学校 卒業
京都産業大学 経営学部 卒業
2004年 ハウスメーカーへ入社
2008年 ファイナンシャルプランナー取得
2009年 総合保険代理店へ入社
2010年 FP Office Shirasaka 開業
2013年 ジョインコントラスト株式会社 設立