住宅ローン減税はいつまでに利用すべき?延長された期間や要件などを解説
マイホームは高額な買い物で、住宅ローンを利用して購入する人も多いでしょう。住宅ローンは借金なので、利用すれば金利の負担が生じます。この金利負担を軽減して、マイホームの取得を後押しする国の制度が「住宅ローン減税」です。
住宅ローン減税を利用すれば、住宅ローンを利用してマイホームを取得し、一定の要件を満たす場合に所得税・住民税の負担が軽減されます。対象期間も延長されているため、マイホームの購入を検討されている方は、ぜひ活用したいところです。
※本記事はすべて2023年7月末時点の情報をもとに作成しています。
1.住宅ローン減税についておさらい
住宅ローン減税とは、住宅ローンの残高に応じて所得税が控除される制度のことです。所得税から控除しきれない場合には、一定額を上限に翌年度の住民税からも控除されます。住宅ローンの実質的な返済負担が軽減される制度であり、住宅ローンを利用してマイホームを購入するなら有効に活用したい制度です。
住宅ローン減税は、新築・中古住宅の購入のほか、現在住んでいる住宅の増築・リフォームにも利用できます。2022年度の税制改正によって制度の適用期間が延長され、2025年末までに住宅を購入して入居した場合が控除対象になりました。
また、以下のような環境に配慮された住宅は、そのほかの住宅に比べ、住宅ローン借入残高のうち住宅ローン減税の対象になる金額の上限が高く設定されています。
- 長期優良住宅・低炭素住宅
- ZEH水準省エネ住宅
- 省エネ基準適合住宅
なお、2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅の場合、省エネ基準に適合していないと住宅ローン減税は受けられません。
また、税制改正では、控除額・控除期間についても以下の通り改正されています。
- 改正前:控除率1%・控除期間10年間(消費税増税に伴う特例措置13年)
- 改正後:控除率0.7%・控除期間13年間(既存住宅・増改築は10年間)
この改正により、控除期間は新築住宅(買取再販を含む)は原則13年、既存住宅(中古住宅の取得・増改築)は10年となり、控除率は一律0.7%へ引き下げられています。
2.住宅ローン減税はなぜ期間が延長された?要件は?
2022年度の税制改正により、適用期間が延長された住宅ローン減税ですが、延長にはどのような背景があったのでしょうか。また、どのような要件を満たした人が、住宅ローン減税の対象となるのでしょうか。
以下、適用期間の変更の背景・減税を受けられる人の要件について解説します。
住宅ローン減税の適用期間が延長された背景
本来、住宅ローン減税が終了するタイミングは2021年末となっていました。しかし、新型コロナウイルスの影響が世界中に広がったこと、2050年までにカーボンニュートラルを実現するための対応を講じる必要が生じたことなど、諸々の事情を勘案した結果、国は2025年まで住宅ローン減税を延長することを決定しました。
国が住宅ローン減税の延長を決断した背景には、消費者側の個人消費抑制のマインドを見越した、需要喚起のねらいがあったものと推察されます。つまり、コロナ禍の中で住宅ローン減税まで終了してしまうと、消費者が住宅購入を見送ることが予想されたため、国は減税策を継続し、消費者の住宅購入に対する意欲を高めようとしたのです。
また、国は温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を推進しています。省エネ基準に適合した住宅の普及もその一環です。持続可能な社会を構築する上では、ビジネスだけでなくライフスタイルにおいても国民の意識変革が求められているところであり、住宅ローン減税はそのきっかけ作りの1つといえるかもしれません。
住宅ローン減税を利用するための要件
住宅ローン減税の適用を受けるためには、所定の要件を満たしていなければなりません。ここでは、新築住宅と中古住宅の要件について、改正による主な変更点を解説します。
新築の場合
住宅ローンを利用してマイホームを新築(取得)する場合、住宅ローン減税を受けるためには、次のような要件を満たす必要があります
- 控除を受ける本人が主に居住する家屋であること
- 住宅の引渡日または工事の完了から6ヶ月以内に居住すること
- 控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住していること
- 控除を受ける本人の住宅ローン減税を受ける年の合計所得金額が2,000万円以下であること
- 新築住宅の床面積が50㎡以上であること(店舗併用住宅の場合、床面積の1/2以上が居住用であること)
- 償還期間(返済期間)10年以上の住宅ローンを組んでいること
- 居住を開始した年とその前2年間に、居住用財産の譲渡所得の課税の特例を受けていないこと
- 居住年の翌年以後3年以内に居住した住宅(敷地を含む)以外の一定の資産を譲渡して、上記譲渡所得の課税の特例を受けていないこと
- 生計をともにする親族等からの取得でないこと
- 贈与による取得でないこと
控除を受ける本人の所得要件に関しては、改正前の合計所得金額が3,000万円以下のため、改正前に比べて1,000万円ダウンとなっています。
また、対象となる住宅の床面積要件に関しては例外があり、合計所得金額が1,000万円以下の場合で、2023年末までに建築確認を受けた新築住宅であれば、住宅の床面積は40㎡以上となります。
中古の場合
中古住宅を購入する場合、住宅ローン減税を受けるためには、新築住宅の適用条件に加えて次のような要件を満たしている必要があります。
- 建築後に使用されていること
- 「昭和57年(1982年)1月1日以後に建築されたものであること」または「新耐震基準に適合している住宅であること」
※いずれかを満たすことが条件です
税制改正前は、築20年以内(鉄筋コンクリート造など耐火構造住宅は築25年以内)であること、または一定の耐震基準を満たしていることが条件でした。改正後は築年数の要件が廃止され、「1982年以後に建築された住宅(新耐震基準に適合した住宅)」に要件が緩和されています。
ちなみに新耐震基準とは、1981年6月1日から施行された耐震基準のことで、震度6強~7程度の揺れでも家屋が倒壊・崩壊しないことを基準としています。
3.住宅ローン減税の手続き|何をいつまでに行うのか
住宅ローン減税を受けるためには、所定の書類を準備して控除額を計算し、確定申告を済ませなければなりません。以下、住宅ローン減税の手続きを進めるにあたって、何を・いつまでに行う必要があるのか、簡単にご紹介します。
まずは書類を準備
住宅ローン減税を最初に受ける年には確定申告が必要で、主に次のような書類が必要になります。
- 確定申告書
- 住宅借入金等特別控除額の計算証明書
- 住宅ローンの借入残高証明書
- 源泉徴収票(給与所得者のみ)
- 土地建物の登記簿謄本
- 建築請負契約書または不動産売買契約書のコピー
- マイナンバーカード(本人確認書類・マイナンバー確認書類)
- 住宅の性能を証明する書類(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅、ZEH水準省エネ住宅、省エネ基準適合住宅の場合)
新築なのか中古なのか、新築であれば注文住宅なのか建売住宅なのか、また住宅の性能によっても必要な書類が変わるため注意しましょう。なお、年末調整の対象になる給与所得者(会社員など)は、2年目以降年末調整で控除を受けられます。
控除額(減税額)の計算方法
住宅ローン減税における控除額(減税額)の上限は、次の計算式で求められます。
【住宅ローン年末残高×控除率(0.7%)】
上記で計算した金額を、まずはその年の所得税から控除し、所得税から控除しきれない場合は、翌年の住民税から9万7,500円を上限に控除します。
計算する際は、対象となる住宅の種類・入居の時期によって、控除対象となる住宅ローンの残高に上限がある点に注意しましょう。例えば新築・ZEH水準省エネ住宅の場合、2022~2023年に入居する場合の限度額は4,500万円ですが、2024~2025年に入居する場合は3,500万円に減額されます。
確定申告はいつから
住宅ローン減税を受けるためには、入居した翌年の3月15日までに確定申告を行わなければなりません。2年目以降は、会社員か自営業者(フリーランス)かで必要な手続きが変わってきます。年末調整の対象になる会社員の場合、2年目以降は年末調整で住宅ローン減税を受けられます。自営業者の場合は、2年目以降も引き続き確定申告で手続きが必要です。
確定申告を忘れた場合はどうする?
もし、確定申告を忘れてしまった場合、住宅ローン減税対象となる初年度から5年以内に申告をすることで、経過した年の分の還付を受けられます。手続きを忘れたことに気付いたら、早めに還付申告を行いましょう。
4.住宅ローン減税を利用する際の注意点
住宅ローン減税の利用にあたっては、いくつか注意しておきたい点があります。以下で具体的にみていきましょう。
他の控除と併用する場合の控除額は本来の納税額が上限になる
住宅ローン減税はふるさと納税(寄付金控除)や医療費控除など他の控除とも併用でき、併用によってさらに税負担が軽減されるケースもあります。ただし、もともとの納税額が上限となる点に注意が必要です。
繰上返済はトータルで負担が減るか(得になるか)で判断する
住宅ローンの返済期間を短縮したり総返済額を抑えたりするには、毎月の返済とは別に、任意のタイミングで返済する「繰上返済」が有効です。
金利が1%を切るような低金利の住宅ローンであれば、住宅ローン減税適用終了後に繰上返済したほうが有利になりやすいでしょう。一方、高金利の住宅ローンや、もともと住宅ローン残高が控除対象となる借入限度額を超えているケースでは、早めに繰上返済して利息を抑えたほうが有利になりやすいといえます。どちらが有利かは、金融機関が提供しているローンシュミレーターなどを使い、実際に計算して判断するとよいでしょう。
住宅ローンの金利は今後どうなる?日銀の金融政策が与える影響を解説
転勤などで住み続けられなくなったときの対応を把握しておく
せっかくマイホームを手に入れても、転勤などでその住宅に住み続けられなくなるケースもあります。このようなケースで住宅ローンの適用を受られるかは、そのときの状況次第です。
転勤等のやむを得ない事情があり、住宅ローン減税を受ける本人(住宅の所有者)が対象となる住宅に住み続けられなくなった場合でも、以下のような要件を満たせば減税(控除)を受けられます。
- 親族が家屋の取得等の日から6ヵ月以内に入居して引き続き居住し、転勤等のやむを得ない事情が解消した後は本人がその家に居住する見込みがある場合
- 転勤等のやむを得ない事情で居住しなくなる日までに税務署へその旨の届出を行い、その後再び居住した場合
転勤に伴って家族全員で引っ越したときは、減税(控除)は適用されなくなります。しかし、その家に戻って再び住み始めれば、最初に居住を始めた年から起算して控除期間が残っていた場合に限り、再度減税を受けることが可能です。減税の適用を再開するには手続きが必要なので、忘れないようにしましょう。
なお、再び住み始めた年にその家を賃貸に出していたときは、その年分の減税は受けられません(翌年分以降から適用)。
5.まとめ
2022年の税制改正によって、住宅ローン減税の適用期間が延長され、控除期間は原則13年(既存住宅は10年)に、控除率は0.7%に変更されました。また、入居する時期や住宅の性能によって、減税(控除)の適用可否や対象となるローンの借入限度額が変わります。これから住宅を購入する人は。これらを事前に把握しておき、購入する住宅の性能や住宅ローンの借入額を決める際に考慮するとよいでしょう。
住宅ローン減税を受けるには、最初の年(入居した翌年)に確定申告が必要です。忘れずに手続きしましょう。なお、年末調整の対象となる会社員などは、2年目以降年末調整で適用を受けられます。また、住宅ローン減税の適用期間中にふるさと納税や繰上返済などを行う場合は、メリットをトータルで考えて、より有利な方法を選びましょう。
執筆者 竹国 弘城
RAPPORT Consulting Office (ラポール・コンサルティング・オフィス)代表
1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®
名古屋大学工学部機械・航空工学科卒業。証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。お金に関する相談や記事の執筆・監修を通じ、自身のお金の問題について自ら考え、行動できるようになってもらうための活動を行う。